サステナブルの現場から #07|奈良県川上村・過疎化を緩やかに脱する持続可能な取り組み

2025年11月、SJSで初となる国内サステナブル・トレイルを、奈良にて開催しました。
吉野郡川上村は、吉野そして日本の林業発祥の地です。今回は泉谷繁樹さん(株式会社泉谷木材商店)をコーディネーターに迎え、最高級の建築材として知られる吉野杉・吉野桧の育つ山を歩き、吉野に根付く文化や風土・職業を守りながら、過疎化の状況を少しずつ脱却してゆく現状を視察。行政と民間が協力し実践する持続可能な取り組み事例をふんだんに感じられる、充実の2日間となりました。

サステナブル・トレイル〜奈良編 全行程

<1日目>
川上村高原地区の森(林業家・川上村役場職員の案内)
 「水源の森で湧き立ての水を飲む」(山歩き:片道20分程度)
奈良県式作業道の施工見学
 「ヘリコプター集材からの脱却」
義務教育学校「川上村立かわかみ源流学園」(令和6年4月開校)見学
明治から続く料理旅館である朝日館の周辺散策と地域の方との懇談夕食会
過疎化から脱却した川上村の取り組みや、その日の視察についての意見交換
 「旬の野菜、山菜、ジビエ、川魚などの郷土料理の夕食」及び宿泊

<2日目>
樽亮木材(樽丸づくり)見学/「地域おこし協力隊」の制度活用事例①
studio Jig 見学/「地域おこし協力隊」の制度活用事例②
奈良県フォレスターアカデミー
 スイスのフォレスター(森林作業員の国家資格)制度を参考にした、持続可能な森林管理や次世代の林業従事者の育成を視察
吉野町の酒蔵、美吉野醸造株式会社
 百年杉の木桶を用い、地域の素材と伏流水と井戸水で仕込まれる、伝統製法で人気の酒蔵見学

1日目は、山守と川上村職員を兼務する方にもご同行いただき、村民としての視点からも案内していただきました。 奈良の歴史は古く、奈良時代のものは当たり前に残り、鎌倉時代のものは新しい、桜井(市)は卑弥呼のふるさととの説もあるほど、とのことにまずは驚きながらスタートです。

川上村高原地区 山林と水源地の見学

高原公民館から徒歩10分程度の山の入口から、急な階段を登ると、まっすぐに並ぶ吉野杉の林に出ました。木と木の間は狭く、立っているのも難しい斜面一面に高い杉が育っています。

この辺りは急峻で田んぼができなかったため、木材を糧にするべく人工林が生まれました。50年後、100年後、300年後に使うため、代々、木々が受け継がれてきました。

吉野の山は、山の持ち主である「山持ち」に代わって「山守」という方々が代々手入れを行ってきました。植える際には「密植」されて樹間は狭いですが、育つに従い、曲がったものや細いものから「多間伐」されます。

密植されているため、光の入る量が均一になり、年輪はまん丸になって育ちます。また、密植により上に上にと背を伸ばさざるえないため、高くは50mにも達するとのこと。世代を超えて丁寧にていねいに「撫育」され、世界に誇る吉野杉・吉野桧が生み出されてきました。

降雨量が多く、かつては海底であった土壌に恵まれており、他地方で同じように育てても、このように素晴らしい杉や桧は育たないとのことでした。

もっと奥に歩いていくと、水源地が現れました。かつてはその湧き水で村の人たちは生活をしていましたが、水源より上の木々を伐採したことで、一度は涸れてしまったそう。少しずつ木々を育てようやく水が戻ってきた、という貴重な水を飲ませていただきました。

樹齢300年の人工林

宿泊する朝日館さんの竹皮に包まれたお弁当を美味しくいただいた後、樹齢300年の吉野杉の林へ。200年も300年も生きてきた木は荘厳で、時代を超えて間伐された林は、先ほど歩いた若い林よりも木々との間は広くなり、地表は植物で覆われていました。

斜面の上を見上げると大きな切り株が。明治神宮の鳥居となる柱が「国内でここならあるかもしれない」と探し当てられ、10年ほど前に選ばれ切られ、残った切り株でした。「近くに行ってみる?」との誘いに乗った参加者多数、他にない切り株を拝見できたことと引き換えに、ふかふか斜面に足をとられズルズル滑り歩き‥。山道のある重要さを、身をもって知ることとなりました。

奈良式作業道の施工現場

山から切り出された丸太は、かつては人力で川から運び出されていました。二人一組で大量の丸太をいかだにして運ぶ、命がけの仕事でした。その後、ヘリコプターで1本ずつ運びだす方法に代わりますが、かつて4社あったヘリコプター会社は現在1社になり、燃料費などもかかるため、採算があわず簡単には切り出せない状況が続いています。

その状況を打開すべく、木材を運び出す山道が整備されつつあり、その施工現場を見学させていただきました。 その施工が見事でした。山を削り、現在では産業廃棄物にしてしまう土をそのまま山道につかう基盤として活用し、間伐の丸太材で土留した切取法面は、植物が生え土壌がそのまま守られています。

時代が進むと、その間伐材も土に還り、やがて植物が根をはり安定するとのこと。道幅は、明るくなりすぎて土壌が乾燥しないよう、林の木々にまんべんなく光が入ることを妨げないように、ギリギリ許容できる幅にしているとのことでした。山を守ることを知り尽くした人々の知恵と技術が詰まった施工現場でした。

川上村立 かわかみ源流学園

続いて、令和6年に開園した、保育園を併設した小中一貫教育のかわかみ源流学園を視察しました。子育て支援の拠点も設置されており、保健師・助産師などの職員が配置されていて、「生まれる前から」子育ての相談や交流をすることができます。

今回は、義務教育学校の棟内を見学させていただくことができました。木造3階建(一部、鉄筋コンクリート造)の内部には、ふんだんに吉野杉が使われていました。床材には節のないまっすぐの吉野杉が張られ、柔らかく温かい感触、教室の室名札には樹齢400年の杉の巨樹が使われており、校舎内はふるさとの魅力が感じとれる空間となっていました。

川上村の職員の方からは、地場産材を使いこなすための設計や材料の調達、施工時の苦労などを丁寧に説明を受け、最後に吉野杉でできた受水槽を見せてもらいました。

子どもたちは地域の本物の素材に囲まれ、親たちは産前から義務教育の間、子育ての専門家が常駐する安心感が得られています。移住者が無理なく毎年少しずつ増えている、その環境づくりが垣間見えるものでした。そして、子どもたちの作品展示からも、のびやかに育っている様子がうかがえました。

朝日館

朝から内容たっぷりの視察を終え、宿泊は明治14年からつづく川上村の朝日館さんへ。

この辺りは、熊野街道の中間地点であり明治時代から宿場町として栄えました。大正造りの木造の建物は、急斜面沿いに建てられ、客室2階、3階のどこからも緑あふれる庭が楽しめます。建具の意匠や大正硝子など窓ひとつみるのも楽しい建物でした。

夕食には、鹿刺し・牡丹鍋・天魚塩焼・松茸ごはん…などなど山の恵みを美味しくいただき、地元のお酒も紹介いただきながら、貴重な懇親の場となりました。

今回は、村役場の方にも懇親の場に加わっていただいただいたので、1日の視察を通しての感想や、全国各地から集まった参加者の地域での取り組みや課題などの意見交換が活発に行われました。

(写真・文/大久保宜子)

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