サステナブルの現場から #03|スイス・ゼロウェイストを実践する伝統的ビール醸造所 Locher

2024年10月に6泊7日で行われた「サステナブル・トレイル2024」の視察報告の第3弾です。
チューリッヒ(スイス)で現地集合したSJS代表の滝川+15名の参加者で専用バスに乗り、スイス・オーストリア・ドイツにまたがるボーデン湖の周辺に沿って、持続可能な取り組みを行う企業や自治体、教育機関などを視察しました。

サステナブル・トレイル2024 全行程
訪問先
自己手配により日本出国チューリッヒ空港にお迎え
#01 協同組合式のエコ・シェア集合住宅Vogelsang
#02 オーガニック・ZEBワイナリーLenz
オーガニック・スーパー訪問夕食会
#03 オーガニック・ビール醸造所Locher
  美しいアッペンツェルの旧市街で各自散策後、昼食〜オーストリアへ
#04 持続可能な教育を実践するルステナウ村の小中一貫公立学校Schule am See/ビオホテルでの夕食
#05 ☆☆☆☆ビオホテル・シュヴァ―ネン
#06 自治体Langenegg/ビオホテルでの夕食
#07 ユーバーリンゲン市(ドイツ)のオーガニックストア・レストラン
#08 ドイツ洗剤メーカー Sonett
#09 ドイツスポーツ用品メーカー Vaude
#10 スイスBiogas Zurich
・夕食会
ホテルチェックアウト〜チューリッヒ空港から帰国

視察2日目はスイスで最も小さな州となるアッペンツェル・インナーローデン準州の州都である、アッペンツェルにあるオーガニック・ビール醸造所 Locher(以下、ロッハー)を訪問しました。

スイスに工場を持つ欧州の有名ビールブランドを除いて、スイスの家族経営によるビール醸造所では最大規模となる同社。1800年代前半の創業当初は、敷地内にビール醸造所のほかレストラン、蒸溜所、農家を併設していました。しかし、第2時大戦が終了するまでとても小さくて貧しい村だったこともあり、地域の資源をどうやって使うかということを常に熟慮しなければいけない地域でもあったそう。昔から、ビールはレストランで提供され、ビール醸造から出る廃棄物は家畜の餌となり、そして農家で生産された生産物がレストランの食材となる「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」が当たり前化していたということです。

スイスでは1992年までビール市場にはカルテルが形成されており、ロッハーは半径13kmの商圏しか持ちませんでした。しかし、この30年でスイスで一番最初のオーガニックビールやウイスキー、食品の生産を開始し、従業員も10名から300名と増員し4つの生産拠点を持つに至っています。今ではロッハーのビールはスーパーやキオスクでも手に入り、スイス初のオーガニックビールであることが採用の決め手となり、スイスインターナショナルの航空便で飲むこともできます。

ロッハー社では特にこの10年「循環」を最重要テーマとして掲げ、生産施設のソーラー発電などによるエネルギー自立にバイオガス設備や、地域の山岳地帯の原料の導入など、省エネ設備や新商品開発への投資を多く行ってきました。しかし、持続可能性を考えた際の設備投資は当たり前の時代となり、より深く追求した時に醸造所にある「資源」の活用が浮上してきたのだそうです。

その資源の大半は、ビールを醸造する際に1日で35トンも生じる「大麦の搾りかす」でした。繊維分が豊富でプロテインを含む絞りかす以外にも、注入しきれない液体やビール酵母などの副産物もあります。これまでは「廃棄物」であったものを「資源」として捉え、何ができるのかを考えたのです。

家畜の飼料では消費しきれない搾りかすをバイオガスに転用し、さらにそのまま食材として生かすことができないかと開発されたのが、ビールの試飲時に食したチップスでした。とても美味しくって軽いので、視察の序盤にも関わらずお土産にする人が多数でした。チップスの他にも、搾りかすが原材料の85%を占め保存料や化学調味料不使用の代替肉に、ビール酵母についてはビタミン豊富な魚の養殖用の餌として、液状の廃棄物は「酢」へと生まれ変わりました。

スタートアップ企業と共に、ビール醸造における廃棄物のアップサイクリングを手掛けるロッハー社。スイスでもその動向が注目を浴びる食品メーカーとなったのは、過去の「循環型経済」を現代に新しく生まれ変わらせたことに他なりません。

視察の最後は、お待ちかねの試飲タイムです。ノンアルコールを含めビール各種やシングルモルト・ウイスキーの他に、前述の酢に関しても試飲させてもらいました。個人的に重量からビン類は我慢していたのですが、このリンゴ酢に関してはお土産として持ち帰ることに。サステナブル・トレイルでは先々で良い食材との出会いがありお土産に事欠くことはありませんが、序盤から何を持ち帰るべきか悩ましい視察でもありました。今年の5月に予定しているサステナブル・トレイル2025」にもどうぞご期待ください。

(写真・文 岡田真樹子)

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